アリスズc

 昼間の熱が、少しずつ冷めていく日暮れの風の中、リリューはエインと二人で我が家へと帰り着いた。

 母は、次郎に乳をやるために、早めに帰ったのだ。

 扉を開けるのに、一瞬だけためらったのは、この家に客人がいるからだ。

 エインでも、ロジアでもない客人が。

「おかえりなさい」

 最初に出会ったのは、エンチェルクだった。

 昼間のような怪訝は、もはや彼女にはない。

 おそらく、母からイーザス達の話を聞いたのだろう。

 都に連れてきたことに関しては、リリューの責任の部分が多い。

 もしもの時は、その責任は自分の身で取らなければならないことだけは、ちゃんと理解していた。

「応接室で、お客様がお待ちよ」

 エンチェルクの表情には、怪訝はないが、わずかな翳りがある。

 何かあったのだろうか。

 リリューが帰ってくることは、エンチェルクでも母でも、彼女に伝える機会はあったはずだ。

 それで、待っていてくれたというのならば、きちんと向かい合って話をする気があるということで。

 しかし、そんなリリューと彼女のことで、エンチェルクが浮かない顔をしている理由は分からない。

 とりあえず、応接室へと向かうことにした。

 ひとつ。

 違和感があった。

 リリューの後ろから──エンチェルクがついてくるのだ。

 無関係なことに、彼女がおせっかいにも首をつっこむことなどありえない。

 ということは、何か関係があるのか。

 いつもと違う様子に、リリューは胸騒ぎを感じて、少し足を速めた。

 ノッカーを鳴らすべきだった。

 彼は、後悔した。

 そうすれば、扉を開ける前に分かったのに。

 リリューが、応接室のドアを不躾に開けると。

 ソファには、人がいた。

 しかも、二人。

「遅かったな」

 一人は、ヤイク。

「待ちくたびれたぞ」

 そして、もう一人は──テル。
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