アリスズc

 こんな戦い方もあるのか。

 エンチェルクは、ほとほと感心していた。

 ビッテのことだ。

 彼女は、キクの弟子になるまで、剣についてはド素人だった。

 だから、他の人間が剣を振っていたとしても、それがどういうものなのかまったく理解できていなかったのだ。

 ある意味、日本剣術の純粋培養な人間だった。

 何度か刀を抜いたことはあるが、相手は自己流の腕の良くない人間ばかりで、エンチェルクでも楽に撃退することが出来た。

 しかし、ビッテの力は圧倒的だった。

 洗練されているとは言い難いが、力を剣に乗せる技術だけで言えば、キクを超えているだろう。

 そこまで思って、エンチェルクはキクが女性であることを思い出した。

 ああ、そうか、と。

 キクは、力に頼る剣は振るわない。

 だがそれは、同時に出来ないことでもあったのだ。

 だから、彼女は力を補って余りある技術を会得した。

 そのかけらを、エンチェルクも受け継いだのだ。

 自分が剣術を習おうと思った時。

 キクが女だったからこそ、自分にも出来るのではないかと考えた。

 もし彼女が男だったなら、女に剣は無理だと思い、決して手を出さなかっただろう。

 そういう意味で、キクという女性は稀有なのだ。

 足りないものは、別の方向で補うことが出来るのだと、エンチェルクは彼女の背を見て知ったのだから。

「見事です…」

 エンチェルクは、全てを切り伏せた彼に、そう話しかけていた。

 無意識だった。

 ビッテの視線がこっちに来て、慌てて口を閉ざす。

 思い出したのだ。

 彼は、貴族の子息なのだ、と。

 エンチェルクにとって貴族とは、昔雇われていた屋敷の主人一族と、ヤイク。

 彼女をひどく扱わない貴族など、昔世話になった領主の子息くらいだった。

 それも、キクの修行を受けた後の話なのだが。

「…たいしたことじゃない」

 ビッテは。

 答えた。

 エンチェルクの言葉に──答えてくれた。
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