アリスズc
∠
「珍しいな、リリュールーセンタスの間抜けな顔なんて、滅多に拝めないぞ」
テルは、入ってきた男を見て愉快に思った。
一瞬だけ、リリューは事情を理解できずに、呆然とした顔をしたのだ。
この、静かな男が。
「客人が、こんなむさくるしい男二人だと、思ってもみなかったのでしょうな。愛しい彼女ではなくて、失礼した」
ヤイクは、ニヤニヤと笑っている。
暇つぶしの話の種で聞いたが、いまこの屋敷には、リリューを訪ねて女性が来ているという。
てっきり、その女性と勘違いして飛び込んできたのだろう。
リリューは、すぐに表情を正した。
しかし、さっきの顔を見てしまったテルにとっては、そんな取り澄ました顔さえ滑稽に見える。
どんな男であっても、やはり女には心乱されるものなのだ。
「エンチェルクから、遣いが来てな。気になることもあったから、直接話を聞こうと思って訪ねたところだ」
後方から応接室に入り、扉を閉めるエンチェルク。
リリューは、そんな彼女をちらりと見やった。
ようやく、彼らが来た理由が分かったのだろう。
「いまは、都のどこかにいるはずです」
リリューは、テテラという女性の話を絡めて短く説明した。
その男も、女に入れあげて運命を変えたようだ。
「逆に言えば、イーザスという男はしばらく都にいるわけか」
テルは、ヤイクに視線を向けた。
「すぐに、監視をつけましょう」
撃てば響くとは、このことだ。
幸い、テルの兄弟子でもあり、軍令府のシェローハッシュが、イーザスの顔を見ているという。
彼が遣いから戻ってくれば、すぐに監視の手配は済むだろう。
それらが済んで。
テルは、リリューの方を改めて向き直った。
「さあ、お前の見た異国人の話を聞かせてくれ」
これを、テルは聞きに来たのだ。
彼は、全てのことを直接見聞きすることは出来ない。
出来るだけ生に近い情報を、実際に体験した人間から聞くことによって、血肉にしようと思ったのだ。
それが──自分の務めのひとつ。
「珍しいな、リリュールーセンタスの間抜けな顔なんて、滅多に拝めないぞ」
テルは、入ってきた男を見て愉快に思った。
一瞬だけ、リリューは事情を理解できずに、呆然とした顔をしたのだ。
この、静かな男が。
「客人が、こんなむさくるしい男二人だと、思ってもみなかったのでしょうな。愛しい彼女ではなくて、失礼した」
ヤイクは、ニヤニヤと笑っている。
暇つぶしの話の種で聞いたが、いまこの屋敷には、リリューを訪ねて女性が来ているという。
てっきり、その女性と勘違いして飛び込んできたのだろう。
リリューは、すぐに表情を正した。
しかし、さっきの顔を見てしまったテルにとっては、そんな取り澄ました顔さえ滑稽に見える。
どんな男であっても、やはり女には心乱されるものなのだ。
「エンチェルクから、遣いが来てな。気になることもあったから、直接話を聞こうと思って訪ねたところだ」
後方から応接室に入り、扉を閉めるエンチェルク。
リリューは、そんな彼女をちらりと見やった。
ようやく、彼らが来た理由が分かったのだろう。
「いまは、都のどこかにいるはずです」
リリューは、テテラという女性の話を絡めて短く説明した。
その男も、女に入れあげて運命を変えたようだ。
「逆に言えば、イーザスという男はしばらく都にいるわけか」
テルは、ヤイクに視線を向けた。
「すぐに、監視をつけましょう」
撃てば響くとは、このことだ。
幸い、テルの兄弟子でもあり、軍令府のシェローハッシュが、イーザスの顔を見ているという。
彼が遣いから戻ってくれば、すぐに監視の手配は済むだろう。
それらが済んで。
テルは、リリューの方を改めて向き直った。
「さあ、お前の見た異国人の話を聞かせてくれ」
これを、テルは聞きに来たのだ。
彼は、全てのことを直接見聞きすることは出来ない。
出来るだけ生に近い情報を、実際に体験した人間から聞くことによって、血肉にしようと思ったのだ。
それが──自分の務めのひとつ。