アリスズc

 リリューの部屋に、客人が来ることはまれだ。

 大体、彼の行動で行けば、部屋はほぼ寝る場所に過ぎず、ソファを使うことなどほとんどない。

 はっきり言えば、彼にとってこの小さな応接部は、無用の長物と言っていいだろう。

 しかし、この家は借り物。

 元々あったものを、無理に押しのける必要もなく、置いたままにしていたのだ。

 そこに、彼女が眠っている。

 リリューは、とりあえず──向かいのソファに座ってみた。

 意外と、座り心地がよいものだと思った。

 長いこと、本当にこれは自分にとって飾りだったのだと思い知らされる。

 その飾りの向こう側で、彼女はすやすやと寝息を立てていた。

 待ちくたびれたのだろうか。

 今日、彼が帰って来たことは、エンチェルクからでも母からでも聞く機会はあったはずだ。

 どういう過程があったかは知らないが、彼女はここで待つことになったのだろう。

 だが、テルの訪問で予定は全て崩れ去った。

 その間、彼女はずっとここにいたのか。

 いつ来るとも知れない、リリューを待って。

 むにゃと動いた口に、彼は我知らず笑みを洩らしてしまった。

 起きている時の彼女は、少し騒々しかったが、いまの彼女は子どものように上半身を丸めて眠っている。

 その落差が、おかしかったのだ。

 人には、多くの顔がある。

 今日の自分は、テルからは間抜け顔に見えたらしい。

 それが、自分の内側にある心の揺れの部分を指摘したのだとしたら、確かに否定できない。

 家族のこと、親族のこと、故郷のこと。

 リリューの中にも、いろいろと揺れる部分がある。

 その中の一つに、この女性のことがあった。

 そんな彼女の。

 瞼が、揺れる。

 一度、強く強く眉間の真ん中に顔を寄せるように顰められる。

 その後。

 ぱちりと。

 目が。

 開いた。
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