アリスズc
∞
エインは、真面目に剣術に取り組んでいる。
そう長い間、都にはいられないことを知っているからだ。
その時間の少なさを、努力で埋めようとするのだ。
たとえ、手練れの上級者に転ばされようと、彼は立ち上がり礼をする。
そんな弟の姿は、桃にとって誇らしく嬉しいものだった。
道場の人たちと、気さくに慣れ合うことは出来ない彼だが、その立場と頑張りはちゃんと周囲に理解される。
精神的な部分だけは、しっかりと父から鍛えられていることが、よく分かる姿だ。
しかし。
「私と手合わせしない?」
「………」
桃のこの希望には、さっぱり答えてくれる気配はない。
女と手合わせする気にならないのか、姉と認められないわだかまりがあるのか。
「ヤマモト流というより、テイタッドレック流だな、ありゃ」
都に戻ってきたシェローが、汗びっしょりになりながら、エインの相手を終えて壁際に戻ってくる。
そのまま、桃の隣に座り込んだ。
「上背はあるし手足が長くて速いから、距離が測りにくすぎる」
ああ。
なるほど、それはテイタッドレック流と言われてもしょうがない。
桃も持っているこの身体は、独特の間合いを作るようで。
彼女よりも大きく、長い腕や足を持つエインなら、なおさらだろう。
「果物をいただいたのよ…みなさんどうぞ」
片手で松葉づえを。
もう片手に皿を持ったテテラが、器用に道場へとやってくる。
桃がその申し出に喜んで向かおうとしたら、シェローがちらとテテラを見やって複雑な表情を浮かべた。
「彼女が家から離れる時は、出来るだけついててやれよ」
ぼそり。
他の人には聞こえないように、彼はそう言った。
ああ。
そうだ。
シェローは、軍令府の役人なのだ。
異国人の勢力を、一番危険視すべき役所。
「ありがとう、シェロー兄さん」
詳しくは言えない立場なのに、ありがたい助言をくれる兄弟子に、感謝の微笑みを送る。
けれど。
「……いま、誰かに睨まれたような…気のせいだよな?」
何故か、シェローは怪訝にきょろきょろした。
エインは、真面目に剣術に取り組んでいる。
そう長い間、都にはいられないことを知っているからだ。
その時間の少なさを、努力で埋めようとするのだ。
たとえ、手練れの上級者に転ばされようと、彼は立ち上がり礼をする。
そんな弟の姿は、桃にとって誇らしく嬉しいものだった。
道場の人たちと、気さくに慣れ合うことは出来ない彼だが、その立場と頑張りはちゃんと周囲に理解される。
精神的な部分だけは、しっかりと父から鍛えられていることが、よく分かる姿だ。
しかし。
「私と手合わせしない?」
「………」
桃のこの希望には、さっぱり答えてくれる気配はない。
女と手合わせする気にならないのか、姉と認められないわだかまりがあるのか。
「ヤマモト流というより、テイタッドレック流だな、ありゃ」
都に戻ってきたシェローが、汗びっしょりになりながら、エインの相手を終えて壁際に戻ってくる。
そのまま、桃の隣に座り込んだ。
「上背はあるし手足が長くて速いから、距離が測りにくすぎる」
ああ。
なるほど、それはテイタッドレック流と言われてもしょうがない。
桃も持っているこの身体は、独特の間合いを作るようで。
彼女よりも大きく、長い腕や足を持つエインなら、なおさらだろう。
「果物をいただいたのよ…みなさんどうぞ」
片手で松葉づえを。
もう片手に皿を持ったテテラが、器用に道場へとやってくる。
桃がその申し出に喜んで向かおうとしたら、シェローがちらとテテラを見やって複雑な表情を浮かべた。
「彼女が家から離れる時は、出来るだけついててやれよ」
ぼそり。
他の人には聞こえないように、彼はそう言った。
ああ。
そうだ。
シェローは、軍令府の役人なのだ。
異国人の勢力を、一番危険視すべき役所。
「ありがとう、シェロー兄さん」
詳しくは言えない立場なのに、ありがたい助言をくれる兄弟子に、感謝の微笑みを送る。
けれど。
「……いま、誰かに睨まれたような…気のせいだよな?」
何故か、シェローは怪訝にきょろきょろした。