アリスズc

あし


「今日、テテラさんと町へ出ようと思うのよ」

 翌日。

 母が、桃にそう言った。

 買物や、見物にでも連れだす気だろうか。

 それは、悪い話ではないし、おかしくもない。

 だが、シェローに言われたばかりだ。

 テテラについていてやれと。

 母は、身体は弱いが腕が弱いわけではない。

 滅多に見せることはないが、身を守ることくらいは出来るが、それは間違いなく母の身体に負担をかけるだろう。

「私も一緒に行く」

 つい身を乗り出して、桃は宣言してしまった。

 その勢いに、母は意外そうな顔をする。

「大丈夫よ、菊と一緒に行くつもりだから」

 答えは、桃にとって意外だった。

 伯母さまが!?

 ありそうでありえない話だ。

 姉妹なのだから、一緒に出かけても不思議はない気もするが、違う道を歩く二人が、行動を共にするところをほとんど見たことがなかった。

 何だろう。

 わざわざ護衛に、伯母を呼ぶ人とは思えない。

 それならまだ、先に桃に話があるはずだ。

 何か、企んでいるのではないだろうか。

 企むと言えば、聞こえが悪いかもしれないが、それがぴったりな言葉に感じたのだ。

 自分が気に留めなければ、知らないまま流れていってしまうかもしれない何か。

 だから。

 桃は、言葉を変えてこう言ってみた。

「わ、私もついて行ってもいい?」

 心に、留めてみることにしたのだ。

 母は。

 静かに微笑みを浮かべる。

「好きになさい」

 母が、秘密のヴェールをほんの少し、持ち上げてくれた。
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