アリスズc
∞
女四人で、町に出た。
普通、女四人で買物なんてことになれば、布問屋や装飾品、そこまで贅沢にいかなければ、日常生活の品や食品が並ぶ市場などとなるはずが。
母も伯母も、そんな華やかな市場街道など、見事に素通りだ。
素通りと言っても、テテラの速度に合わせているため、非常にゆっくりではあったが。
華やかな都の市場通りを、眩しそうに見つめている彼女は、別の意味で都の人に見られる。
大きな松葉杖を見た後、彼らは必ず足を見るのだ。
テテラの、足りない足を。
都も広い。
人も多いし、事故もあるだろう。
だから、身体の一部が不自由ながらも生きている人たちもいるはずだが、彼らを余り見ることはない。
外に出るのを、おそらく好まないのだろう。
町の住民全てが、死に直面したあの港とは違うのだ。
先頭の伯母は、市場の終わりの路地を折れ、裏通りへと入る。
建物の間の細い道は、完全なる日陰なのに、熱さが一層増した気がした。
複雑な臭いが入り混じり始める。
食べ物より、遠い匂い。
「ここは?」
桃は、足を踏み入れたことのない通りだ。
素直に問いかけると、伯母が肩越しに振り返る。
「熱職人通りだ」
熱職人。
火を使う仕事をする人たちだ。
鍛冶に陶器、硝子職人たちのこと。
扉を開け放して、彼らはごうごうと燃える火と戦いながら仕事をしているのだ。
見ているだけで火傷しそうなのに、彼らのほとんどが上半身裸で、火と戦っている。
こんな熱職人たちに、一体何の用が。
「邪魔するよ」
その一つに、伯母が入った。
そこでは、火は焚かれていなかった。
最初から、約束をしていたのだろう。
「いらっしゃい、キク先生」
中から出てきたのは、桃も知っている男だった。
同じ道場の門下生で──この国で、唯一日本刀を鍛えることの出来る鍛冶職人だった。
女四人で、町に出た。
普通、女四人で買物なんてことになれば、布問屋や装飾品、そこまで贅沢にいかなければ、日常生活の品や食品が並ぶ市場などとなるはずが。
母も伯母も、そんな華やかな市場街道など、見事に素通りだ。
素通りと言っても、テテラの速度に合わせているため、非常にゆっくりではあったが。
華やかな都の市場通りを、眩しそうに見つめている彼女は、別の意味で都の人に見られる。
大きな松葉杖を見た後、彼らは必ず足を見るのだ。
テテラの、足りない足を。
都も広い。
人も多いし、事故もあるだろう。
だから、身体の一部が不自由ながらも生きている人たちもいるはずだが、彼らを余り見ることはない。
外に出るのを、おそらく好まないのだろう。
町の住民全てが、死に直面したあの港とは違うのだ。
先頭の伯母は、市場の終わりの路地を折れ、裏通りへと入る。
建物の間の細い道は、完全なる日陰なのに、熱さが一層増した気がした。
複雑な臭いが入り混じり始める。
食べ物より、遠い匂い。
「ここは?」
桃は、足を踏み入れたことのない通りだ。
素直に問いかけると、伯母が肩越しに振り返る。
「熱職人通りだ」
熱職人。
火を使う仕事をする人たちだ。
鍛冶に陶器、硝子職人たちのこと。
扉を開け放して、彼らはごうごうと燃える火と戦いながら仕事をしているのだ。
見ているだけで火傷しそうなのに、彼らのほとんどが上半身裸で、火と戦っている。
こんな熱職人たちに、一体何の用が。
「邪魔するよ」
その一つに、伯母が入った。
そこでは、火は焚かれていなかった。
最初から、約束をしていたのだろう。
「いらっしゃい、キク先生」
中から出てきたのは、桃も知っている男だった。
同じ道場の門下生で──この国で、唯一日本刀を鍛えることの出来る鍛冶職人だった。