アリスズc

 鍛冶屋!?

 一瞬驚いた桃だったが、日本刀絡みの話ならばおかしくない。

 いやいやいやいや、おかしいよ。

 納得しかけた自分を、無理矢理に打ち消す。

 ここにもし、テテラがいなければ納得したかもしれない。

 彼女のために出かけた二人が、日本刀関連でつながるとは思えなかったのだ。

 だが。

 いたのは、鍛冶職人──ウーゾだけではなかった。

 汗をだらだら流しながら、ぐったりしている男がもう一人。

 こちらは、桃の知らない人だった。

 その男が、女四人の訪問を確認した直後。

 それまでのぐったりが嘘のように、びしっと立ち上がった。

「こんにちは、淑女のみなさん」

 一瞬で身なりを整え、艶のある笑みを浮かべる。

 汗さえ、気合でひっこめたかのような様子に、桃はぎょっとしてしまった。

 深い土色の瞳と対照的な、少し薄い肌の色。

 髪は、少し長めで縛っているが、とても貴族には見えなかった。

「リスチェイドーメルベンラウハと申します。よろしくお見知りおきを」

 キラキラした瞳を桃に向け、長い名前を一気に並べ連ねる。

「は、はぁ…桃と申します」

 圧倒されながらも、条件反射的に名乗ると。

「おぉ、モモ! この国では聞き慣れない甘美な異国の香り! すらりとした肢体に、厳しさと優雅さを兼ね備えた…うごっ!」

 謎の呪文をまくしたてていたリスの頭を、鍛冶屋ウーゾの鉄拳が襲う。

「すみませんね、キク先生…こういう男なんですわ」

 大きなため息と共に、ウーゾは太い腕で彼の首根っこを掴むと、そこらに強引に座らせる。

「ああ、大体分かった」

 目だけで、伯母は笑った。

 なるほど。

 桃も、把握した。

 この男は、女性が好きで好きでたまらない人なのだろう。

 その中でも特に、若い女性が。

 だから、桃に的を絞ったのだ。

 だが、分からないことがある。

 リスは── 一体何者なのか。

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