アリスズc

 リスは──建築家で彫刻家だった。

 特に、木材の専門家だという。

「彼の父が、うちの道場を建てたんだ」

 そう伯母に教えられ、桃は驚きと感嘆の目で彼を見直した。

「本当は彫刻家一本でいきたかったのですがね。母に泣きつかれては、さすがの僕も断れなかったのです」

 まだ、妙なキラキラ成分をまきちらしながら、リスは己の立場を語る。

「売れてねぇクセに」

 ウーゾの厳しい一言に、男同士の視線が火花を散らす。

「リスチェイドーメルベンラウハ氏の彫刻は、とても写実的ですね。現実的な建築とよく似ていると思います」

 母は、彼の作品を見たことがあるのだろう。

 その言葉に感動したのか、リスはしっかと母の手を取る。

「全てありのままが一番美しい…そうは思いませんか?」

 まるで口説いているようなその様子を父が見たら、斬られるのではないだろうか。

 桃は、そんなくだらないことを考えてしまった。

「そのありのままを、あなたに再現していただきたくて、訪ねてきましたの」

 柔らかい笑みで、母は自分の手を握るリスの指をじっと見た後。

 彼の視線を引っぱるように、斜め後ろを見た。

 そこには。

 静かに。

 杖で立ったまま微笑んでいる──テテラがいた。

 リスは、彼女の上から下までを舐めるように見る。

 そして、下で止まった。

「彼女の足を、一本御所望という話でしたね」

 彫刻家の言葉は、衝撃となって桃の身体を駆け抜けた。

『ここは、太陽に近い場所でしょうから、どこかに私の足も来ているかもしれません』

『それは、素晴らしい考えだ。ゆっくりと、都で足を探して行かれるといい』

 テテラと伯母の、冗談のような会話が甦る。

「素晴らしい足を作る必要はないよ。前と同じ足でいい」

 冗談なんかじゃなかった。

 伯母は、本気だった。

 本気で──テテラの足を作る気なのだ。
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