アリスズc

「ただいま、桃」

 ぴょんぴょん身軽に跳ねながら、コーが帰ってくる。

 ここしばらく、太陽妃のところに行ったきりだった彼女は、上機嫌そうに見えた。

「おかえり、コー。いいことでもあった?」

 母からもらった紙とにらめっこしていた桃は、眉間のシワを伸ばしながら友人を見る。

「うん、卵が産まれたの!」

 両手の指でまあるいわっかをつくって、コーは嬉しそうに説明する。

 ああ。

 都に戻って、ソーには妻が出来たのだ。

 コーが仲良くしているメスの尾長鷲。

 人間には狩られることはあっても、野生の動物の中では強いその種は、多くの卵を産まないという。

 今回も、2つしか卵はないらしい。

「ああ…私も早く卵が産みたいなあ」

 うっとりとした声でコーがとんでもないことを言うものだから、桃はぶっと吹いてしまった。

 すると、彼女はにこっと笑う。

「大丈夫、私が産むのは卵じゃなくて赤ちゃん。でも、卵を温める姿は、ちょっと羨ましいな」

 ちゃんと分かってるよと言っているのだろうが、桃は内心複雑だった。

 何というか。

 コーは、見る度に艶が出てきている。

 色気が増しているというか。

 女性として成熟して、子孫を残したくて仕方がない繁殖期の動物に近い気配がするのだ。

 ハレがいるからそうなのか、彼女の中の動物的部分がそうさせるのかは分からない。

「コーは、ハレイルーシュリクス殿下の子どもを産むの?」

 つい。

 直接的に聞いてしまった。

 コーに、回りくどい言葉は無駄なのだ。

 すると。

「一番最後の歌を覚えたら…子ども作っていいってお父さんが言ってくれたの」

 彼女は、ぽぉっと頬を染めた。

 あー。

 何というか。

 あのトーにして、このコーありというか。

 動物的な父娘な関係を、良好に維持しているようだった。
< 478 / 580 >

この作品をシェア

pagetop