アリスズc

「仕事を探していると聞いたのだが…」

 おおっぴらに語っていないはずのことでも、あっさりと聞きつけてリリューのところへとやってきたのは──ヤイクだった。

 父や母が、息子の話をこの男に持ち掛けるはずもない。

 ということは、町に張り巡らせている情報網から拾い上げたということか。

 最近、リリューは総務府が運営している求人場へと顔を出していた。

 都で試験的に始まったそこでは、雇用主により求人の情報が貼り出されているのだ。

 こういう新しい試みの場所の情報を、この男が持っていないはずがなかった。

 もしかしたら、開設にも関わっているのかもしれない。

「はい」

 しかし、求人場に出されているものは、しっかりとした仕事のものが多い。

 技術職、商家の手伝い、飛脚見習い。

 自分に、果たして出来るのかどうか悩ましいものばかりだった。

「金銭に疎い一族だからと、迂闊だった。前回の、港町までの護衛の報酬を後で届けさせよう」

 ヤイクは、奇妙な方向の話をした。

 元々。

「あれは、『ついで』でしたから」

 そうなのだ。

 母とジロウの様子を見に行くための、自分が故郷に帰るための、あくまでもついで。

 それでいいとテルが言ったので、引き受けたにすぎない。

 そんなことで、報酬をもらおうとは思っていなかった。

「ああ、分かっている。分かっているが、今後仕事を頼むのに、金払いの悪い雇い主だと思われても困るだけだ」

 金を必要としているのに、それを手に入れる過程を尊重する性格のことなど、お見通しだったのだろう。

 そのあたりを、面倒そうにヤイクは言葉で払う。

「次の仕事の前金と思ってもらっても構わない…身体を張る仕事をする気はないか?」

 金につける名前など何だって構わないのだ、と。

 重要なのは。

 一番最後。

 危険な仕事を、彼はリリューに持ってきたのだ。

 また、この人はどこかへ行く気なのか。

 そう思ったが──行くのは、ヤイク自身ではなかった。

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