アリスズc

 歌を、どうやって継いでいくか。

 これは、月の一族にとって非常に大きな命題だったのだろう。

 混血が進んだのか、彼らのほとんどは音の魔法を使えないのだから。

 全てを語らないトーから、それでもハレは多くの言葉を引き出した。

 そして、分かったのだ。

『場』というものが何か。

 歌の詰まった場所。

 全ての歌を覚えた月の魔法使いが、己の命と引き換えに残す歌の部屋。

 最後の歌は──『場』を作るためのものだったのだ。

 それにより、その空間に魔法使いの覚えた全ての歌が残る。

 場が壊されない限り、永遠に。

 後は才能のありそうな子どもを、そこに放り込めばいい。

 場が勝手に、歌える範囲の歌を刷り込んでくれるのだ。

 トーも、幼い時にそこへ入った。

 髪が真っ白になって出てきた彼を見て、月の一族は歓喜したという。

 逆に。

 コーは、場へ入れてもらえなかった。

 彼女の才能に気づいた者が、トーの二の舞を避けるために、必要な歌を口伝のみで教えたからだ。

 場と言うものを知ったハレは、こう考えたのだ。

 その場があればいいというのならば──トーが命と引き換えに作らなくてもいいのではないか、と。

 同時に、理解した。

 ああ。

 自分もまた、イデアメリトスなのだと。

 月の一族の持つ場を手に入れるということは、彼らを滅ぼすということ。

 その道筋が、頭の中に描けた時。

 母よりも父に近づいた自分を知ったのだ。

 一人の命と引き換えに、多くの命を奪う。

「トー」

 ハレは、自分に茫然としながら、彼の名を呼んだのだ。

「トー…あなたとコーと未来のために…場を手に入れましょう」

 命の価値とは、本当は──不平等なのだ。
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