アリスズc

「ハレがやる気を出した」

 テルは、ヤイクを前に事の次第を伝えた。

 ついに、月の一族の殲滅戦が始まる。

 自分が父の名代として、指揮を行うこととなりハレと共に軍を出す、と。

「軍令府と会議が必要ですね…まあ、あの賢者殿が最高指揮官ですから、やりやすいのは助かりますな」

 彼は、武の賢者を思い出したのか、ふっと笑みを口元にたたえた。

「それと…『あちら』は兄殿下に任せるとして…『こちら』も軍令府とは別の我が君直下の隊を作りましょう」

「簡潔に言え」

 あちらだのこちらだの、まぎらわしい。

 ずばっとテルは、ヤイクの言葉を斬り捨てた。

「はい、我が君を守り、そして手足のごとく動ける人間を、側に何人か置かれた方が使いよいでしょうと」

 とりあえず、これが『こちら』の話とやららしい。

 最初に思い浮かんだのは、ビッテだった。

 彼は、現在軍令府に籍を置いている。

 旅を成功させ、次代の賢者になることがほぼ決まっているビッテは、肩書をつけるためにも、いずれかの府に属させた方が都合がよかったのだ。

「ええ、彼ならば誰も文句をつけることはないでしょう…それともう一人、武の賢者殿の子息はいかがですかな?」

 府長の息子ビッテと、賢者の息子リリューを両側に侍らせようと考えているのか、この男は。

 武のテルを飾るには、それが一番似合うとでも思っているのか。

「調整は任せる」

 力強い両翼に、苦笑が出るほどだった。

「さて…」

 その苦笑の陰から、己の忠臣を見る。

『こちら』の話は片付いたぞ、と。

「兄殿下もいらっしゃるというのならば…『彼ら』も連れて行くべきかと」

 ああ。

 そうか。

 ヤイクの言わんとしていることを、テルは察した。

 自分の両翼に、力強い男を二人侍らせるというのならば。

 ハレにも両翼が必要だろう。

 その翼は、きっと──白に違いない。
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