アリスズc

「一緒に行くよ」

 夜のバルコニー。

 さも当然のように、コーは笑った。

 まだ、ハレが何も切り出していないというのに。

「トーに聞いたのかい?」

 彼女の父は、ハレに月の本拠の話を語った。

 その話をすることが、どういう結果になるか分からない彼ではない。

 ハレの祖父の代から、既に彼は話をする準備はあったという。

 ただ祖父は、トーが話をする意思があることを知ってはいたが、本気で聞き出そうとはしなかったらしい。

 我が祖父ながら、計りづらい人だ。

「うん、お父さんがハレイルーシュリクスと、一緒に行こうって言ったの」

 近所に散歩にでも行くかのような口ぶりに、彼は戸惑った。

 本当に、意味が分かっているのか、と。

「お父さんね、コーのことを考えて決めたんだって…この先、魔法を使える子が生まれても、彼らは不幸な道しか歩けないだろうって」

 それは、重い言葉だった。

 突然、重力を増した彼女の言葉は、その音が形作る真実に間違いなく触れているものだ。

 コーは、人間らしい生き方さえ与えられなかった。

 ただ、歌を歌える傀儡にしたかっただけ。

 憎しみの連鎖を断てず、そんな歪んだ魔法の使い方しかできないというのならば。

「本当は、私達がやらなきゃいけないことを、ハレイルーシュリクスが言ってくれたから…」

 だから。

「お父さんと私と…一緒に行こう、ね、ハレイルーシュリクス」

 微笑むコー。

 自分らの血の源流を、断ちに行くのだと。

 誰よりも言葉を噛みしめるこの父娘が、それと分かって同行しようというのだ。

 それは、一緒に戦いに行くという意味ではなく。

 一緒に──戦いの結果を背負うと言う意味だった。
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