アリスズc

 ハレが隣領主宅に到着した時。

 最初から、オリフレアは不機嫌そうだった。

 彼女の家は、ここではない。

 それでも、ここで待っていたということは、彼らの旅の様子を見たかったのだろう。

 そして、不機嫌な理由は──先を行くテルに会った時に、何かあったのだ。

 オリフレアは、特にテルによく絡む。

 おそらく、テルの方が彼女にきちんと反応するからだろう。

 彼は、オリフレアを流す傾向があった。

 嫌っているわけではないが、彼女の力は暴れ馬のように無秩序に振りまかれる。

 子供の癇癪と同じで、扱い難いのだ。

 彼女が、それほどの無頼者になってしまった理由を、ハレは大体分かっていた。

 分かっているが、それを自分が救えるとは思ってはいない。

 彼女が、自分で解決すべき問題なのだ。

 そんなオリフレアでも、テルは自分よりはちゃんと付き合っている。

 それを、彼女も分かっているからテルの方に行くのだろう。

「こっちは若いのばっかりね」

 オリフレアは、『頼りなさげ』という言葉を、声に隠さずにはっきりと言った。

 興味のあるもの以外に、あまり反応しないホックスは、鼻先を通り抜けるその声を追うこともせず、リリューは沈着な態度を崩さない。

 唯一モモだけが、ドキっとしたように彼女を見返した。

 その反応を、オリフレアは見逃さなかった。

「あら、綺麗なのを連れてるじゃない…夜の世話でもさせるの?」

 痛烈な八つ当たりが、彼女めがけて炸裂する。

 モモは、目を見開いて固まってしまった。

「オリフレアリックシズ…いい加減に…」

 あまりに低俗な言葉を、ハレがいさめようとした時。

 ホックスの瞳が、何かを思い出したように動いた。

「ああ…第一号にして、ほぼ完成された温室のある屋敷の方か」

 瞬間。

 オリフレアは沸騰した。

 イデアメリトスの血筋としての自分ではなく、立派な温室のある家の人間程度にしか、彼には認識されていなかったからだ。

 オリフレアの怒りは、まっすぐにホックスに向く。

 10歳程度の身体でも、本気の一撃はあなどれない。

 ホックスに向かった拳は──リリューが代わりに身体で受けた。
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