アリスズc

 義足よりも、テテラの命の方が大事。

 そんなイーザスが、彼女を取り返しに来たと言う事は──そういうことだろう。

「伯母さま、爆弾男が来ます!」

 桃は、伯母に分かる形で、それを伝えようとした。

 こんな。

 月の一族の、討伐隊が出るのを待っていたかのように、顔も知らぬ男が動き出したのだ。

 伯母も、港町のロジアの屋敷で、直接の対峙はなかったが片鱗は知っているはず。

「ああ、聞いている」

 ユッカスの危険性は、既に伝わっていたようだ。

「イーザスとやら…」

 一度だけ、ちらりと彼女は後方の家を見やった。

 桃の家。

 いまは、母とそしてテテラがいる。

 これだけの騒ぎを家の近くでしていながら、二人とも動く気配はなかった。

 彼女に、この家を出て行く気がない、という証だ。

「お前さんには、本当の意味で彼女を守れるのか?」

 伯母の言葉は、緩やかだが──痛い。

 たとえ、ここでテテラを連れ去ったとしても、ずっと彼女と共にはいられない。

 せいぜい、ユッカスにテテラの命を盾に、脅す材料にされるのが関の山だ。

「うるさ…っ!」

 口から泡を飛ばして怒鳴ろうとする男は、瞬間硬直した。

 一瞬にして間合いを詰めた伯母に、鞘ごと引き抜いた刀の柄で、その顎を押し上げられていたのだ。

 動きの切れ味は、さすがとしか言いようがない。

 わずかな時間にせよ、あのイーザスを動けない状態にしたのだ。

「何故…私らを利用しない。そうすれば、こんないびつな関係も終わりに出来るってのに」

 伯母は、己の道と己の美学を持っている。

 それは、決して真っ白ではない。

 そんな彼女が、イーザスに言わんとしていることを、この時の桃は──理解出来た。

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