アリスズc

「ここにいる女を引き渡してもらおう」

 武の賢者宅は、災難に見舞われていた。

 見知らぬ男が4、5人で、押しかけて来たのだ。

 応対に出ていたのは、レチ。

 騒ぎを聞きつけ、エンチェルクは階段を下りているところだった。

「女とおっしゃいましても、どなたのことでしょうか? それ以前に、どちらさまでいらっしゃいますか?」

 男たちの態度が、余りに不躾なせいか、はたまた元々機嫌が悪かったのか。

 にこにこ仕事をするレチとは思えないほど、頑迷な態度だ。

「我らは天の賢者殿の遣いの者である」

 居丈高に、己が主人の名を語る。

 よりにもよって、こんな時に。

 エンチェルクは、歯噛みした。

 武の賢者は、今回の遠征に参加しているために、都を離れているのだ。

 そして、その妻であるキクは道場へ行っている。

 いや、こんな時だからか。

 二人の留守を、天の賢者は見計らったのだ。

 ロジアを連れて行ってしまえば、こっちのものだと言わんばかりに。

「ああ、そうでございますか。けれど、こちらは武の賢者様の屋敷です…狼藉は許されません」

 レチは、負けていなかった。

 玄関先で、男たちと互角に渡り合っているではないか。

 これはもしかしたら、レチが撃退出来るかもしれない。

 エンチェルクは、階段途中で足を止め、少し様子を見ることにした。

「それは後で賢者殿が話をつけられる…いいから、よそから来た女を渡せ」

 男の言葉に、レチの首が斜めに傾いた。

「よそから来た…? それは、私の事ですか?」

 彼女の知るよそ者など、自分だけだろう。

 レチが来た時、すでにロジアは当たり前のようにこの屋敷にいたのだから。

 あっ。

 いやな予感のしたエンチェルクは、慌てて玄関に迫ろうとした、が。

「きゃあああ!!!」

 多くの手が。

 ふくよかな彼女を、あっという間に玄関から引っ張り出し、荷馬車へ放り込んで行ってしまったのだった。


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