アリスズc

「奥様!」

 武の賢者宅の使用人が、手紙を片手に道場へと駆けてきた。

 イーザスは去り、エインと伯母と今後のことを話し合っている時のこと。

「何事だ?」

 エンチェルクからという手紙を受け取ると、伯母はさっと開いた。

 文面に目を通したが、その表情に驚きはない。

 それどころか、傑作と言わんばかりに笑い出したのだ。

「お、伯母さま?」

 笑いながら、手紙を差し出され、桃は慌ててそれに目を通す。

 エインも気になるらしく、横目で見ている気配があった。

 天の賢者の遣いとやらが来て、ロジアと間違ってレチを連れ去った。

 要約すると、そう。

 レチというのは、リリューを追って弟と一緒に都に来た女性だ。

 ほとんど顔を合わせていないし、話をしたことはないが、それくらいは聞いていた。

「今頃、リサーは…はっはっは…さぞや、遣いのものを怒鳴りつけていることだろうよ」

 天の賢者を捕まえてリサー呼ばわりしながら、彼女はひとしきり笑い続けた。

「さて…」

 その笑いから立ち直りながら、伯母は使用人に「まもなく帰るとつたえてくれ」と言って帰した。

「賢明なエンチェルクのおかげで、話がまとめられそうだ」

 そう言うと伯母は、桃の家に向かって、こう言ったのだ。

「おぉい、二人とも…しばらくうちで暮すといい」

 デカイのが二人いなくなったから、ちょうどよかったよ。

 夫と長男を捕まえて、ひどい言い様である。

 彼らだけでなく、腕の立つ男衆は、今朝旅立って行ってしまった。

 この、男手の足りない都で、より安全性を高めるには、力を分散させないこと。

 そう、伯母は考えたのだろう。

「すぐ支度します」

 家から答えたのは、テテラだった。

 少し距離があるため、母に大きな声を出させないように代わってくれたのだろう。

 伯母は、次に桃の方へと向き直った。

「そういえば、爆弾男は桃を狙ってるんだったな。それなら桃にリサーの家に行ってもらうかな」

 天の賢者宅が、爆発に巻き込まれたらいいとでも思っているのだろうか。

 伯母は、いつも通りの口調で、非常に不穏なことを語り出したのだった。

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