アリスズc

 家に帰ったリリューを、父が待っていた。

 正確には、父と父の客が。

 客は、小さかった。

 だが、その首に長く巻きつけた髪を見れば、素性は分かった。

 ほくろはない。

 肌の色も、少し薄い。

 子供の姿をしているが、その瞳は穏やかにリリューを見ている。

 道場では、分け隔てなく扱われるので勘違いしそうになるが、彼らはイデアメリトスの子なのだ。

 リリューは、黙って臣下の礼を取った。

「すまない、突然押し掛けて」

 テルの双子の兄──ハレは、そうして語り始めるのだ。

「ダイエルファン…貴方の息子殿の力を、貸してもらえないだろうか」

 優しい、声だった。

 断られたならば、そのまま帰るだろうと思わせる、そんな声。

 望むならば。

 彼らが望むならば、いくら成人前とは言え、ある程度のことは強いることは可能なはずだ。

 だが、そうしたいと思っていない。

 柔らかなイデアメリトスの子。

「私の成人の旅の伴として、同行して欲しい」

 捧櫛の神殿への、小さい身での旅。

 彼は、それを乗り越えなければ成人とみなされないし、次代のイデアメリトスの太陽になれないのだ。

 連れて行けるのは、男が二人だけ。

 その一人に、自分を選ぶと言っているのだ。

 テルとは、反対側の陣営について欲しい。

 いままで、ほとんど面識のない彼に、そう頼まれている。

 その意味を、リリューが考えようとするより先に。

 ハレは、穏やかに付け足した。

「ただ…申し訳ないが、旅が成功しても、息子殿を賢者にすることは出来ないだろう。それでよければ、だが」

 何を。

 何を、この子は言っているのか。

 リリューは、その意味をよく飲み込めなかった。
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