アリスズc

「ご迷惑をおかけしました」

 レチは、ふわっふわな白い肌を持った人だった。

 都では、まず滅多に見ない色だ。

 桃も、元々そんなに黒いわけではないのだが、どうしても都で生活しているため日常的に日に焼けてしまう。

 それでも、ここでは白い方だ。

 レチのそれは、はっきり言って違う肌。

 髪はしんなりとした灰色。

 どこの生まれだろうか、このあたりでは、本当に見ない容姿をしている。

「いえ、迷惑をかけたのはうちの方ですから」

 レチは、ロジアと間違えて連れて行かれた。

 本人にしてみれば、災難以外の他ならない。

 天の賢者宅からの帰り道。

 かの御仁は、荷馬車でレチを連れ去ったが、送り届ける心配りは見せてくれなかったので徒歩だ。

 ヤイクは、そのまま残った。

 賢者と、じっくりたっぷり話をすることがあるそうだ。

 多分、また面倒なことを考えているのだろう。

 それは、ロジアの時で十分体験済みだった。

 武の賢者宅で、桃を囮にする気満々だろう。

 そうなると。

「あの…リリュー兄さんの家、しばらく危ないことがありそうなんで、どこか安全なところをご紹介しましょうか?」

 心配の言葉は、レチのぽにょぽにょをこわばらせた。

「だ、大丈夫です…ちゃんと働けますから」

 いや、そんな心配をしているんじゃなくて。

 しかし、話をこれ以上進めない方がよさそうだということは分かった。

 いままで周囲にいる人たちの、誰とも違うタイプなのだと、こうして話すとよく分かる。

 だが。

「どうして女性たちは、誰も素直に逃げると言わないのか」

 エインの中では、桃を含めてみないっしょくたにされているようだった。

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