アリスズc

 歌い終わった後のコーは、一度口を閉ざして地面を見た。

 そして、空を見る。

 輪を描く鳥。

「道は見つけましたけど、人もいっぱいいます」

 彼女の言葉に、テルはそうだろうと思った。

 これほど分かりやすい、進軍をしてきたのである。

 飛脚が発達していようがいまいが、敵にも当然知れているだろう。

 テルは、奇襲をしに来たのではない。

 正面から、敵をすり潰しに来たのだ。

 もはや二度と、立ち上がり彼らに敵対出来ないよう。

「では、その連中を…ハレの部隊に片づけてもらおう」

 先行部隊に、兄を任命する。

 これには、いくつもの意味がある。

 一番先を行くハレは、旅の時とは逆に多くの屍を乗り越えなければならない。

 この戦いを、強く望んだのは彼だ。

 ならば、これから起きる現実に、その手を深く染める責任がある。

 そして。

 ハレが動けば、あの父娘が動く。

 月の一族との戦いの先頭に、月の一族が立つ。

 本当であれば味方であったはずの者たちに、彼らは討ち果たされるのだ。

 彼らが、大事にしてきた歌とやらで。

 父娘の、徹底的な一族との決別。

 あの二人が、今後の禍根とならぬよう。

 今後とは、今日明日、数年後の話ではない。

 テルの子、果てはその子孫に至るまでだ。

 本当のことを言えば。

 この同士討ちで、共に滅びて欲しいところだ。

 ハレには、決して言うことの出来ない本心。

 生きること。

 それそのものが、禍根の種となることが、残念ながら彼らにはある。

 だが、この考えは決して口には出さない。

 出した瞬間。

 テルとハレの間に深い亀裂が入るのは間違いない。

 最後の策は、力技ではあるが、他のものを考えている。

 余計なことを言って、敵を増やす必要などなかった。
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