アリスズc

 みな、太陽を憎んでいた。

 大人も子供も、男も女も。

 400年という長い年月で、魂にまで刻まれたのではないだろうかと思えるほどの抵抗。

 かくして、火口の集落は本当の地獄となった。

 テルは高台に立ち、右手に火、左手に風をともした。

 炎の強さや位置を、風で制御するためだ。

 炎のない側に兵士を配置する。

 兵士の先頭に立つのはビッテ。

 火から逃れた月の者たちは、必然的にそこへ追い立てられる。

 ビッテの剛腕が唸っている音が、ここまで届きそうだ。

 そんな彼らの頭の上を、強い歌が流れていく。

 少ないながら、敵にも魔法を使えるものがいる。

 彼らに参加されると、戦いは非常に厄介になるだろう。

 それを、白い髪の父娘が歌を切らさないことで無効にしているという。

 これで彼らは、優勢に戦うことが出来る。

 火口の集落中にひろがり、反響する歌声。

 虎の子の魔法も封じられ、精鋭も減らされて行き、もはや大勢は決した。

 だが、誰ひとり「助けてくれ」と哀願する様子はない。

 あっぱれだ。

 惜しむらくは、その力をイデアメリトスの血の根絶にしか使えなかったこと。

 残念ながら、テルは生きている。

 ハレもいる。

 彼らは、失敗したのだ。

 その時。

 テルの後方が、突然騒がしくなった。

 数十人の敵の決死隊らしき一団が、地の利を生かして回りこんできたのだ。

 その壮絶な特攻は、護衛の兵を吹き飛ばそうとした。

 壮烈な攻防は、しかし、テルまで届くことはない。

 刀が、閃く。

 彼の背後の守りには──サダカネがいるのだ。
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