アリスズc

 それは、まるで棺のようだった。

 石で作られた直方体。

 だが、一番の特徴は、洞窟に置かれているわけではない、こと。

 床の石と、完全につながっているのだ。

 最初から、この形を作るために掘られているのだ。

 まるで。

 ハレは、思った。

 まるで、イデアメリトスの玉座のようだ、と。

 宮殿にある玉座も、床の石とひとつになっている。

 まったく違う歴史を持つはずの太陽と月の、ささやかな共通点。

 トーが、ゆっくりと石の蓋をずらす。

 中は、不思議なものだった。

 いろいろな原石の結晶が、内側に向かって飛びだしているのだ。

 それらが、暗がりでも小さくキラキラと光っている。

 まるで、夜空をまたたく星のように。

「寝心地が悪そうだな」

 テルの苦笑混じりの感想が、それだった。

 下手に飛びこむと、結晶を壊すか自分の身を傷つけてしまいそうだ。

「さて…」

 弟は、場の中とハレたちを交互に見まわす。

 来たなと思った。

 テルは、この国を愛している。

 それは、責任のある立場として、という意味で。

 そのため、決してトーたちの魔法の力を甘く見てはいない。

 ハレも、自分の一生の約束は出来たとしても、100年先の約束は出来はしないのだ。

「ハレ…お前は、俺と父母とイデアメリトスを永遠に裏切らないか?」

 テルは、不思議な質問をした。

『永遠に』

 異様な言葉だったのだ。

 永遠などという時間は、この世にはない。

 少なくとも、ハレの寿命が普通の人間と大差があるわけではないのだ。

 だが、この父娘は違う。

 トーが、いま本当は何歳なのか、誰も知らない。

 無茶な魔法の使い方をしない限り、彼らの老いはとても遅いのだから。

 テルの真意は計りかねるが、彼らのその長寿を気にしての『永遠』という言葉のように感じたのだった。
< 524 / 580 >

この作品をシェア

pagetop