アリスズc

『場』とやらで交わされた、決して外部には漏らすことのない密約。

 知る者は、ここにいる6人と、ビッテやリリューのこれから産まれるだろう子孫たち。

 全ての賢者が死に、テルが髪を切る前に、兄は別の理由で死んだことにして隠者になってもらう。

 それから命ある限り、陰からイデアメリトスに貢献させる。

 同時に、ハレの性格を見越して、その長く生きられる身体で、知識を集約し生き字引となってもらうのだ。

 たとえこの国の、多くの書物が焼かれるようなことや、国土に甚大な被害を受けるようなことがあったとしても、ハレという知識の保険が残る。

 テルは、長生きには興味がない。

 イデアメリトスの一代が、永遠に君主の椅子に座ることは、百害あって一利なしだ。

 思想や知識が変化していくように、人も生きて死に、君主も代わるべきと考えている。

 だから。

 さっき、テルが言ったことは、本当は残酷なことだ。

 そんなものを喜んで受け取るのは、ハレくらい。

「次の太陽よ、私はイデアメリトスと永遠の信頼関係を誓おう」

 テルとは呼ばず、兄は次の太陽と呼んだ。

 個人ではなく、太陽と約束したのだと。

 それに、頷きだけで返す。

 余分な言葉は、不粋なだけだ。

「引きあげる」

 テルは、両側に声をかけた。

 自分について、ビッテとリリューが洞窟の外を目指す。

 兄との契約は結ばれた。

 ここに長居をする必要はなくなったのだ。

 あの白い髪の父娘を殺す必要もなく、『場』とやらも破壊せずともよくなったということである。

 この後、あの棺みたいなものの中に、娘の方が入るのだろう。

 そうすれば、娘は全ての歌を手に入れるという。

 もはや。

 テルにとって、そんなことはどうでもいいこととなったのだ。
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