アリスズc

 後処理のための兵を火口に残し、テルたちは都へ引き上げようとしたその時。

 都からの早馬が届いた。

 はらりと開き、一目通す。

 父からだった。

「生まれたぞ」

 テルは、控えているビッテとリリューにそう告げる。

「めでたきことにございます!」

「おめでとうございます」

 リリューは、必ずビッテを立てる。

 二人同時に声をかけたとしても、決してビッテより先に返事はしない。

「女だ。さぞや美しく育つだろうな」

 書状をたたみながら、テルはひとつ息を吐いた。

 母子ともに健康であるという事実に安堵したのと、何の実感もまだわかない自分が不思議だったのだ。

 この時ばかりは、女が多少うらやましくなる。

 自分の身を引き裂いて産む代わりに、誰よりも我が子であるという実感を得るだろうから。

 母にとっては、初めての女の血縁となる。

 さぞや今頃は、孫を可愛がっていることだろう。

「一筆したためる…待て」

 テルは、早馬の兵を留まらせた。

 手紙を書く必要があったからだ。

 ひとつは、父へ。

 戦果の報告だ。

 もうひとつは、妻へ。

 ねぎらいの言葉と、娘の名前を贈らねばならない。

 そうでなければ、彼が都に帰りつくまで、娘は名無しになってしまうからだ。

 テル自身は、母の国の太陽にちなんだ言葉をもらった。

 日本には、たくさんの太陽の呼び方があると教えられて驚いたものだ。

 母の国の言葉を、覚えることは勿論ないが、テルにでも覚えられる言葉はあった。

 ヒ(日)だ。

 この国の言葉の中に混じっていたとしても、誰も違和感も感じない一音。

 ヒセリマイエザークレンサウ=イデアメリトス=オルセース19。

 この国で、初めて生まれたイデアメリトスの19だった。
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