アリスズc
∞
「ヒセちゃん…どうぞよろしく」
桃は、褐色の肌の愛らしい赤ん坊をそぉっと抱き上げる。
はっきりした目鼻立ちの、いかにもテルとオリフレアの子だった。
全身打撲で寝込むこと半月。
ようやく、動けるようになった彼女を待っていたのは、オリフレアの出産の知らせだった。
女児とは言え、イデアメリトスの第一子だ。
本来であれば、桃のような人間が近づけるはずがない。
しかし、太陽妃のはからいで、そこから更に半月ほど後であったが、宮殿に招待されたのだ。
その間に、戦いに出ていたテルから付けられた名前だけが先に都に戻ってきたのである。
「異国人から、この国を守ったそうね」
東翼妃ことオリフレアは、赤ん坊を愛でる客にはもう辟易しているようで、ソファからこちらに視線を投げながら、この国の極秘事項をいきなり突きつけてきた。
ヒセを抱く手が、一瞬驚きで震えてしまう。
「そんな大層なことはしてません」
思い出すだに、ひどい夜の出来事だった。
向こうは、モモをただ憎んでいた。
その憎しみを伴う攻撃に、ただ対処しただけだ。
しかも、イデアメリトスの太陽が来てくれたからこそ、あれだけきっちりとした結末を迎え、事後処理も出来たのである。
桃など、最後まで意識を保ってもいられなかったのだから。
「ああ、あなたは釣り餌だったわね。いい餌の役目だったわ」
ほめ、ているのだろうか。
最初に会った時から、非常に棘のある人だったが、それはいまもさして変わらないようだ。
微妙な空気の中、ノッカーが鳴らされる。
太陽妃が来たという。
「ああ…そう」
オリフレアは、うんざりした声を出した。
「お邪魔いたします…あら、桃ちゃん」
にこにこと上機嫌の太陽妃は、自分に軽い挨拶を投げるや、その腕に抱かれるヒセの元へとすっ飛んで来た。
「こんにちは、ヒセちゃん。おばあちゃんですよ」
とろける笑顔を浮かべる彼女は、誰が見ても間違いのない──孫煩悩な人だった。
「ヒセちゃん…どうぞよろしく」
桃は、褐色の肌の愛らしい赤ん坊をそぉっと抱き上げる。
はっきりした目鼻立ちの、いかにもテルとオリフレアの子だった。
全身打撲で寝込むこと半月。
ようやく、動けるようになった彼女を待っていたのは、オリフレアの出産の知らせだった。
女児とは言え、イデアメリトスの第一子だ。
本来であれば、桃のような人間が近づけるはずがない。
しかし、太陽妃のはからいで、そこから更に半月ほど後であったが、宮殿に招待されたのだ。
その間に、戦いに出ていたテルから付けられた名前だけが先に都に戻ってきたのである。
「異国人から、この国を守ったそうね」
東翼妃ことオリフレアは、赤ん坊を愛でる客にはもう辟易しているようで、ソファからこちらに視線を投げながら、この国の極秘事項をいきなり突きつけてきた。
ヒセを抱く手が、一瞬驚きで震えてしまう。
「そんな大層なことはしてません」
思い出すだに、ひどい夜の出来事だった。
向こうは、モモをただ憎んでいた。
その憎しみを伴う攻撃に、ただ対処しただけだ。
しかも、イデアメリトスの太陽が来てくれたからこそ、あれだけきっちりとした結末を迎え、事後処理も出来たのである。
桃など、最後まで意識を保ってもいられなかったのだから。
「ああ、あなたは釣り餌だったわね。いい餌の役目だったわ」
ほめ、ているのだろうか。
最初に会った時から、非常に棘のある人だったが、それはいまもさして変わらないようだ。
微妙な空気の中、ノッカーが鳴らされる。
太陽妃が来たという。
「ああ…そう」
オリフレアは、うんざりした声を出した。
「お邪魔いたします…あら、桃ちゃん」
にこにこと上機嫌の太陽妃は、自分に軽い挨拶を投げるや、その腕に抱かれるヒセの元へとすっ飛んで来た。
「こんにちは、ヒセちゃん。おばあちゃんですよ」
とろける笑顔を浮かべる彼女は、誰が見ても間違いのない──孫煩悩な人だった。