アリスズc

「母は、本当に植物が好きでね」

 桃が、ホックスを休ませていると、ハレが自分の荷を解いた。

 ハレの母――太陽妃でもあり、桃の母の数少ない同胞。

「よく、母と一緒に宮殿の温室へ行ったよ」

 荷の中から、紙の包みを取り出す。

 それを、ハレはつらそうなホックスに差し出すのだ。

「体力が落ちているせいで熱が出たのだろう…母直伝の薬草だ」

 あ。

 包みが開かれた時、知っている匂いがした。

 熱を出した時、母が自分に飲ませる薬だったのだ。

 独特の匂いなので、決して間違えない。

 そっか。

 太陽妃の薬に、桃もお世話になっていたのだ。

 匂いに、ホックスは顔をしかめる。

「効きますよ、これホントに」

 しかめる気持ちが、とても良く分かって――桃は、つい笑ってしまった。

 しかめた視線が、自分にすっとんできたので、慌てて桃は薬を飲むための水の準備に取り掛かったのだ。

 さすがに、太陽妃直伝の薬を、ホックスも拒むことは出来なかったようで。

 桃の差し出す水と共に、一気に薬を飲み干したのだった。

 この後、何が起きるか桃は知っている。

 にこにこしながら待っていると。

 疲労していたホックスは、ことりと眠りに落ちたのだ。

 このまま、少し長めにぐっすり眠るだろう。

 桃も、いつもこうだった。

「道場の朝稽古に、遅れる薬だな」

 リリューは、瞳に笑みを浮かべる。

 彼もまた、その薬のお世話になった人間なのだ。

「そっか…みんなお母さんは日本人なんだっけ」

 分かっては、いたことなのだ。

 だが、いまもなお、ちゃんとつながっている事実が、不思議であり、嬉しかった。

「そう…不思議な三人の女性は、父の旅路に舞い降りたんだよ」

 美しい物語を繰るように――ハレは目を細めた。
< 53 / 580 >

この作品をシェア

pagetop