アリスズc

「トーおじさま!?」

 武の賢者の屋敷の前で、白い髪の男を見つけて桃はとても驚いた。

 いるはずのない人だったからだ。

 遠征組が帰ってくるには早過ぎる。

「元気になったようでよかった、モモ」

 トーは、嬉しそうに目を細め、桃を抱き上げる。

 あ、いや、その、弟が見てる!

 昔と変わらない子ども扱いのその態度に、恥ずかしくなってしまう。

「私は元気にな…あ!」

 話をしている途中で、トーに怪我のことが伝わっていたことに気づいて桃は言葉を止めた。

 まさか、と。

「おばさまのために?」

 桃は、屋敷を見上げていた。

 彼女の怪我が伝わったなら、もっとひどい伯母の怪我のことも当然伝わっているはずだ。

 遠征組の中には、リリューも伯父もいるのだから。

「…もう大丈夫だ」

 ぽんぽん。

 大きなトーの手が、桃の頭をなでる。

 そんな子ども扱いさえ忘れるほど、彼女の頭は喜びでいっぱいになった。

 重傷だった伯母は、太陽の計らいでその命をつなぎとめ、身体もある程度回復をすることが出来た。

 ただ。

 桃は、駆け出していた。

 トーも弟も振りきって、扉を開け、階段を駆け上がり、伯母の部屋をノックするのも忘れて開けてしまった。

「桃」

 礼儀に厳しい母の声が飛んだが、そんなことどうでもよかった。

 伯母はベッドの端に腰かけて、長い間寝ていて少し細くなった足を、ぷらぷらと揺らしている。

「さすがは、トーだな」

 伯母が、こちらを見てにやっと笑う。

 よ、かった。

 足が。

 動いている。

 つねろうがつつこうが、痛みさえ伝えることのなかったその足は。

 もう一度、伯母のものとなったのだ。
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