アリスズc
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「私が元素を扱う魔法使いなら…」
ハレは、荷馬車の隣に座るコーを見た。
トーは、もういない。
先に帰ると駆け出してしまったのだ。
都で起きた、異国人との戦いでモモとキクが怪我をしたと聞き、何かの役に立つかもしれないと。
最初はコーも行くと言っていたのだが、一人で大丈夫だと押しとどめられていた。
「コーたちは、振動を扱う魔法使いなのだろう」
彼らの治療法は独特だ。
身体に手を押し当て、特殊な音を出す。
音そのものが治療しているのではなく、おそらく音の生み出す振動が何かに作用しているのだろう。
得意な治療は、主に身体の内側のことで、外傷は苦手のようだ。
太陽の魔法は、傷ついた部分を再構成し生命力を高めるようだが、身体の中のズレや歪みを治療できるわけではない。
「ハレイルーシュリクスの胸の音も、血の流れる音も、思考の流れる音も聞こえるよ」
コーは、照れたように笑った。
さらりと、すごいことを言うものだ。
ホックスは、いまでも宮殿で彼女に会うと、魔法の話をしているという。
旅をしていた時の、まだあまりしゃべれなかった時とは違い、いまのコーには言葉と知識が積まれて行こうとしている。
だから、彼のまとめる月の一族の魔法の文献は、少しずつ増えていっている。
その理路整然とした資料を見る度に、太陽の魔法についても残したいと思う心はあった。
だが、いまのこの国を統べているイデアメリトスは、それを許すまい。
再び異国人の襲来がないとも限らないし、ずっと北の地に閉じ込められている、もう一つの魔法一族のこともある。
「大丈夫だよ、ハレイルーシュリクス」
考え込んでいた自分の肩を、コーがとんとんと指先でつつく。
「ハレイルーシュリクスが守るものは、私も守るから」
無邪気な笑顔だ。
あれだけの戦禍を目の当たりにしてなお、彼女の瞳に濁りも迷いもない。
「ありがとう、コー」
肩をつついた手に、そっと自分の手を重ねると。
迷いのない瞳に、ぽっと温度がともった。
「私が元素を扱う魔法使いなら…」
ハレは、荷馬車の隣に座るコーを見た。
トーは、もういない。
先に帰ると駆け出してしまったのだ。
都で起きた、異国人との戦いでモモとキクが怪我をしたと聞き、何かの役に立つかもしれないと。
最初はコーも行くと言っていたのだが、一人で大丈夫だと押しとどめられていた。
「コーたちは、振動を扱う魔法使いなのだろう」
彼らの治療法は独特だ。
身体に手を押し当て、特殊な音を出す。
音そのものが治療しているのではなく、おそらく音の生み出す振動が何かに作用しているのだろう。
得意な治療は、主に身体の内側のことで、外傷は苦手のようだ。
太陽の魔法は、傷ついた部分を再構成し生命力を高めるようだが、身体の中のズレや歪みを治療できるわけではない。
「ハレイルーシュリクスの胸の音も、血の流れる音も、思考の流れる音も聞こえるよ」
コーは、照れたように笑った。
さらりと、すごいことを言うものだ。
ホックスは、いまでも宮殿で彼女に会うと、魔法の話をしているという。
旅をしていた時の、まだあまりしゃべれなかった時とは違い、いまのコーには言葉と知識が積まれて行こうとしている。
だから、彼のまとめる月の一族の魔法の文献は、少しずつ増えていっている。
その理路整然とした資料を見る度に、太陽の魔法についても残したいと思う心はあった。
だが、いまのこの国を統べているイデアメリトスは、それを許すまい。
再び異国人の襲来がないとも限らないし、ずっと北の地に閉じ込められている、もう一つの魔法一族のこともある。
「大丈夫だよ、ハレイルーシュリクス」
考え込んでいた自分の肩を、コーがとんとんと指先でつつく。
「ハレイルーシュリクスが守るものは、私も守るから」
無邪気な笑顔だ。
あれだけの戦禍を目の当たりにしてなお、彼女の瞳に濁りも迷いもない。
「ありがとう、コー」
肩をつついた手に、そっと自分の手を重ねると。
迷いのない瞳に、ぽっと温度がともった。