アリスズc

恋の結末


『日差し亭』

 昼は食堂、夜は酒場と宿屋。

 大通り沿いではないし、入ったことはないが、桃は場所は知っていた。

 兵士がよく出入りをする酒場なので、噂だけは道場でも聞くことが出来たのだ。

 夜、しかも酒場。

 男は普通に入ることが出来るが、女が一人で入るところではない。

 だが、桃は既に港町でやったことがあった。

 息を整えて、ざわつく音が溢れる扉を開く。

 久しぶりの騒がしさだ。

 人のしゃべり声、酔った男の大きな声、食器のぶつかる音、椅子がギイギイきしむ音。

 新しく入って来た客など、普通は誰も気にとめやしない。

 だが、女だということが分かると、奇異の視線を投げてくる。

 まだ、遠征組が帰ってきていないので、道場の知り合いの顔は見当たらなかった。

 そして、カラディの姿もない。

 カウンターへ近づくと。

「お嬢さんが何用で?」

 店の主人は、上から下まで桃を眺めた後、腰の刀で一度視線を止めた。

 都の人間なら、それである程度は理解してもらえるだろう。

「無精ひげの男が泊まってませんか?」

「ひげねえ…二人くらい泊まってるけど…他に特徴は?」

 宿泊に、名前はいらない。

 部屋が開いていて、金さえ前金で払えばだれでも泊まれるのだ。

 だから、宿屋の人間に名前を言っても無意味だった。

 桃が、言葉を考えあぐねていた時。

 二階から下りてくる靴音があった。

 見上げる。

 宿屋の主人に、説明する手間がはぶけた。

 カラディだった。
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