アリスズc

 本当の自由を知らない人間に、「これが自由だよ」って与えたところで、使い方を知っているはずがない。

 カラディは、まさにいまその状態だという。

「本当に自由とやらがこの手にあるっていうんなら、お前を口説いたっていいだろう?」

 奇妙な表情を押し隠すように、彼はそんなことを言いだす。

 は、はは。

 桃は、空回るような笑いが出てしまった。

 これは、自由かどうか確認するための、試験のようなものなのだと。

 水の中にある石が、本当に踏んでも安全かどうか、足の先でちょいちょいとつついて確認するような行為。

 カラディは、彼女を実験台にしようとしたのだ。

 馬鹿だなあ。

 桃は、心底そう思った。

 彼女にだって、自由はある。

 その自由の中には、『断る自由』があるのだ。

 自由だからといって、カラディの希望が全て叶うという訳ではないというのに。

 そんな簡単なことさえ、あの彼が分からないでいるのだ。

 そんな二人の間の微妙な空気に割って入るように、豪快に食事がテーブルに並べられる。

 量を重視した料理。

 ここに、兵士が多く集まる理由の一つだろう。

「自由になる前だって、口説けたでしょ」

 そこまで、ユッカスが制限していたとは思えない。

 しかし、桃の考えは浅はかだった。

「イーザスが、どうなってたか知ってるだろ?」

 彼の出す具体例は、桃をひどく納得させたのだ。

 ああ、そうだった、と。

 イーザスは、ある意味テテラを人質に取られていた状態で。

 もし、カラディが本気で女を口説いたとしても、結局弱みとして使われるだけ


 だが、同時に桃は苦笑もしていたのだ。

「私が…弱み?」

 伯母とユッカスに襲いかかった女を捕まえて、おかしなことを言うものである。

「ほんと…しぶとい女だな」

 その点についてだけは、カラディも同意したようだった。
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