アリスズc

 リリューとレチの結婚式は、内々で行われた。

 内々と言っても、テルもハレも太陽妃も来たので、豪華な顔触れになってしまったが。

 二人は、もうしばらくこの屋敷に留まるが、新しい学術都市が出来たら、そっちに道場を作って独立するという。

 若く、学ぶことを追い求める者たちが集まる町で、教えたいと言うのだ。

 心のない学は、曲がり歪むこともある。

 志のない道は、壁にぶつかることもある。

 そう、リリューは言っていた。

 刀の道を歩いていた従兄も、あの旅で変わったのだろう。

 文の道を究めたいと思うものの側に、支えとしての武の心があってもいいのだと。

「リリュー兄さんを、よろしくお願いします」

 灰色の髪に赤い髪飾りをつけ、白い肌に明るい朱の衣装で着飾ったレチに、桃はそう伝えた。

 従兄は、少し浮世離れした人だ。

 そんな人を支えながら、毎日暮らして行くのは、大変なのではないだろうか。

 そう思ったのだが、余計なお世話だったようだ。

「きっと大丈夫……私は、美しくはないけど頑丈だから」

 レチは、切なさと幸せの入り混じる瞳で、桃に微笑み返してくれたのだ。

「綺麗ですよ」

 彼女の微笑は、美しいものだった。

 多くの物を持とうとしない人だ。

 その代わり、持ったものは大事に大事にする人。

 多くの物を持とうとしていた自分とは違う彼女の姿は、桃にとっては眩しいほどだった。

「ありがとう、綺麗な衣装のおかげね」

「いいえ、とても綺麗ですよ」

 苦笑気味にはにかむレチに、もう一度念を押す。

 そうしたら。

 レチは、少し泣きそうな目になって微笑んだ。

「ありがとう……」

 冷たい土の上に、懸命に咲いた小さな花は──こんな美しさなのだろう。


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