アリスズc

「とうさん…」

 リリューは、ダイと向かい合っていた。

 イデアメリトスの子が、答えは後日でも構わないと帰って行った後。

「あの御方は、イデアメリトスの太陽になる気がないんだろう」

 父──ダイは、ゆっくりと語る。

 重い剣を振るう男の唇は、同じように重いのだ。

「テルに譲る、ということですか?」

 問いに、父はすぐには答えなかった。

「おそらく…」

 しばらくの思索の後、彼は口を開いた。

「おそらく…何か、やりたいことがあられるのだ」

 太陽になるより、他のものになりたいと考えているというのか。

 リリューには、にわかに信じがたいことだった。

 だが。

 あの穏やかなハレの瞳に、深い欲など見えない。

 テルの方が、よほど分かりやすかった。

「少なくとも」

 父が、自分を見る。

 時々、こんな風にまっすぐに見る。

「少なくとも、あの御方は旅を成功させるつもりだ」

 リリューを護衛に連れて行くと考えていることから、父はそんな結論に達したのか。

 買いかぶられている。

 彼は、少し困った。

 自分の腕は、まだ父にも母にも届かない。

 父のような剛力ではないし、母のように技巧もないのだ。

 母は、いつもリリューを満足させなかった。

 強くなったと彼が思いかけると、必ず足元をすくうのだ。

 その度に、リリューは自分に足りないものを痛感するのである。

「よく、考えろ」

 大きな手が、彼の頭に乗せられる。

 背だけなら、父と変わらないというのに。

 とうさん。

 私は、もう頭を撫でられるような子供ではありません。

 何度かそれを言おうとしているのだが、いつも失敗するリリューだった。
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