アリスズc

 白い髪の──女の子。

 リリューが抱いて来た少女を見て、桃は驚いた。

 どう見ても、トーと同じ血筋だと思えたからだ。

 だが、髪は完全に白ではなかった。

 左の髪の半分ほどは、黒く残っている。

 それでも、これほど白い髪の若い人を、トー以外で見たのは初めてだった。

 だが、身体はやせほそり、土気色をしている。

 生きているかどうか、桃はとっさには分からないほどだった。

 たとえ生きていたとしても、もはや長くはないだろう。

 そんな少女を。

 ハレが、慈愛深げに見るのだ。

 そして。

「みな…私のわがままを、聞いてくれるだろうか」

 穏やかな、しかし強いまなざしが向けられたのだ。

「私は、彼女を生かしたい。ここで…ただ一度の魔法を、使いたいと考えている」

 桃は、一瞬言葉の意味が、よく分からなかった。

 魔法。

 成人の旅路では、神殿に着くまでは1度しか魔法を使ってはならない。

 そのただ1度を、ハレは彼女を助けるために使うというのだ。

 どこの誰とも分からない、この白い髪の少女のために。

「御心のままに」

 一番、答えが早かったのは──リリュー。

 連れてきた時点で、彼はこのことを予測していたのかもしれない。

「よく分かりませんが…殺し合いよりは生産的だと思います」

 ホックスは、ホックスらしい返事を。

 桃は。

 ただ、こくこくと頷くしか出来なくて。

 うまい言葉を探せない自分が、何だか恥ずかしかった。

「死の魔法はいらないな…既に、彼女はいまその状態だ」

 ハレにしか分からない言葉が、彼の唇から洩れた後。

 彼は、自分の長い髪を一本引き抜いた。

 右手に巻きつけられる髪が。

 金色に燃え上がった。
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