アリスズc

 数日の間、リリューたちはそこで野営を続けることになった。

 少女は、まだ回復しておらず、歩くことが出来ないし、彼女の髪は目立ち過ぎて、街に長く逗留することは危険だと思われたのだ。

 モモが背が高く、彼女が少し低いので錯覚しそうになるが、年の頃はほぼ同じくらいだろう。

 月側の人間が探している少女とは、きっとこの子のこと。

 今度、彼らと遭遇したならば、二重の意味で向こうは必死に襲いかかってくることだろう。

 白い髪の少女を奪い返し、ハレを亡き者にするために。

 甲斐甲斐しく、彼女を世話するモモ。

 モモは一人っ子だったし、周囲の人間はみな彼女より年上だったのだ。

 誰かの面倒をみられるということに、喜びを見出しているように思えた。

 少女は目を開けてはいるが、まだ意識がはっきりしていないようで、ずっとぼんやりしている。

 そんな彼女を間近に見ながら、モモは何か考え込んでいるようだ。

 その目が。

 きょろきょろっと周囲を見た。

 誰も見てないわよね、という風に。

 リリューは、さりげなく視線をそらさなければならなかった。

 自分が見つめていることを、モモが望んでいないと分かったからだ。

 すぅっと、息を吸う音。

 そして。

 モモは。

 小さい声で。

 夜明けの歌を歌い始めた。

 ああ。

 分かった。

 モモは、トーの歌を聞かせることで、彼女を覚醒させたいと思ったのだ。

 トーの歌。

 それは、月の側の歌ということ。

 彼女が、月の人間というのならば、その歌を知っていてもおかしくないだろう。

 リリューは、歌の方に視線を投げた。

 空気が、動いた気がしたのだ。

 少女の目は、相変わらず虚空をさまよっている。

 しかし。

 その唇は──微かに動いていた。
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