アリスズc
∴
歌は──同時に、彼女の身体を輝かせ始めた。
再び目を開けたハレが見たものは、唇から指先まで光が流れてゆく様だった。
滞っていた血を、一気に身体に巡らせるように、少女は歌で自分の生気を取り戻しているのだ。
それが、更に歌の力を強める。
唇はしっかりと開き、吸い込まれる息と吐き出される息が増え、遠く遠くまで歌が響くのだ。
その強い歌は、彼女をより力強く輝かせる。
素晴らしい、正の連鎖。
そして。
彼女が、歌を続けるごとに。
黒く残った髪の一部が、白く変わってゆく。
ゆっくりと、筆で白い絵の具が塗られるように、根本から毛先へと白い筋が流れるのだ。
その白が、毛先へと到達した頃。
歌は。
終わっていた。
遠く遠くを見ていた瞳の焦点は、きちんと合っている。
その目が、一度自身の両手を拳にする様を見て。
そして。
桃を見るのだ。
覚醒のきっかけを与えた桃を。
「あー…ぁぁ…うー?」
その唇から洩れた音は。
意味のない音の羅列。
刹那。
ハレの背筋に、ぞっと冷たいものが走った。
言葉には──知識が含まれていなかったのだ。
声が、出せないわけではない。
それは、さっきの素晴らしい歌で証明済みである。
だが、その声にはどこの国の言葉もなかった。
歌以外の。
歌以外の知恵を、この娘は与えられていないのだ。
何て、ことを。
ハレの胸に、悲しみと憤りの両方が強く渦巻いた。
何て、無体なことを。
彼女は。
ただの。
歌う人形だったのだ。
歌は──同時に、彼女の身体を輝かせ始めた。
再び目を開けたハレが見たものは、唇から指先まで光が流れてゆく様だった。
滞っていた血を、一気に身体に巡らせるように、少女は歌で自分の生気を取り戻しているのだ。
それが、更に歌の力を強める。
唇はしっかりと開き、吸い込まれる息と吐き出される息が増え、遠く遠くまで歌が響くのだ。
その強い歌は、彼女をより力強く輝かせる。
素晴らしい、正の連鎖。
そして。
彼女が、歌を続けるごとに。
黒く残った髪の一部が、白く変わってゆく。
ゆっくりと、筆で白い絵の具が塗られるように、根本から毛先へと白い筋が流れるのだ。
その白が、毛先へと到達した頃。
歌は。
終わっていた。
遠く遠くを見ていた瞳の焦点は、きちんと合っている。
その目が、一度自身の両手を拳にする様を見て。
そして。
桃を見るのだ。
覚醒のきっかけを与えた桃を。
「あー…ぁぁ…うー?」
その唇から洩れた音は。
意味のない音の羅列。
刹那。
ハレの背筋に、ぞっと冷たいものが走った。
言葉には──知識が含まれていなかったのだ。
声が、出せないわけではない。
それは、さっきの素晴らしい歌で証明済みである。
だが、その声にはどこの国の言葉もなかった。
歌以外の。
歌以外の知恵を、この娘は与えられていないのだ。
何て、ことを。
ハレの胸に、悲しみと憤りの両方が強く渦巻いた。
何て、無体なことを。
彼女は。
ただの。
歌う人形だったのだ。