アリスズc

 リリューは、桃と少女を見ていた。

 少女は、まるで赤子のようだった。

 赤子のように無意味な音を発しながら、桃に何かを語りかけている。

 驚いていた桃は、はっとその表情を引き締めた。

 そして、まっすぐに少女を見るのだ。

 その手を。

 自分自身の胸に当てる。

「も・も」

 目を細めて微笑みながら、彼女は自分の名を告げた。

「……?」

 きょとんと、少女は目を見開く。

「も・も」

 もう一度、彼女は繰り返す。

 ゆっくりと、自分の唇を見せるように。

「も…も?」

 その唇の動きを、少女はなぞる。

 何か分かっていないが、ただ繰り返す音。

 桃は、こくんと頷いた。

「もも」

 そして──音をつなげる。

 瞬間。

 少女の身体が、びくっと衝撃を受けたように震えた。

「もも!」

 その細い腕が。

 桃に伸ばされる。

 桃の身体を、何かを確かめるように触れる。

 いや、彼女は桃の形を確かめようとしたように、リリューには見えた。

 この娘の中で、何かがつながったのか。

「ちょ…やめ…くすぐったい…」

 だが、少女は余りに無邪気に、容赦なく桃に触れるため、その手は桃の衣服の下まで滑りこむ。

 男たちは。

 黙って回れ右をした。
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