アリスズc

 少女は、他の三人の男にも同じ洗礼をした。

 彼女が、ハレに飛びかかった時は、さすがのリリューもひやっとしたが、やはり彼の形を確認するように触れるだけで。

「ハレイルーシュリクス!」

 ハレは、苦笑しながらその洗礼を受けていた。

 長い名前も、少女にとっては何の障害でもなかったようだ。

 あれだけの歌を覚えられるのだ。

 元々、頭がおかしいわけではないのだろう。

 逆に短縮系の名前の方が、理解出来なかった。

『リリュー』という呼び名では、彼女はそれが彼の名前であると分からなかったのである。

 乾いた大地が、水を一瞬で吸い取るように、彼女は皆の名前をあっという間に手に入れたのだ。

「リリュールーセンタス!」

 彼女に名前を呼ばれると、名前がただの音の羅列ではないのだと感じさせられる。

 逆に。

 その名前の中に、自分の本質が混じっている気さえするのだ。

 この少女にとっての言葉とは──ただの音ではない。

 それは、リリューにも分かった。

「ホックスタンディーセム!」

 ホックスだけは、彼女の無邪気さと洗礼は、非常に迷惑そうだったが。

 こんなに、言葉の物覚えの早い娘に。

 どれほどのことをすれば、歌以外を教えずにいられるのか。

 そちらの方が、非常に困難に思えた。

 少なくとも、隔離していなければならないはずだ。

 人の言葉など、聞こえないほどの場所に、たった一人。

 たとえ、彼女の世話をするものがいたとしても、絶対に話しかけてはならない。

 そして、歌だけを聞かせれば──こんな娘が出来上がるのだろうか。

 何故、そんな真似を。

 思い当たる節は。

 たったひとつ。


『トー』
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