アリスズc

 桃は、トーにもらった愛情を、少女へ向けた。

 言葉を教え、トーに習った歌を教え──そして、彼女を抱きしめた。

 桃の力では、彼がしてくれたような抱き上げることは出来ないから。

 不思議なことに、桃が歌を教える度に、彼女の髪は白さを増していった。

 何故か、歌以外を知らなかった少女。

 それは、とても不思議だった。

 桃にとっては『何故か』だった答えは、すぐに解けることになる。

 彼女が眠った後、桃は他の三人とその話をしたのだ。

「おそらく…トーが、月側から離れたことと関係があるのだろう」

 ハレは、眠る彼女を見つめながらそう言った。

「でしょうね…その後に生まれた彼女を、彼らは手放したくなかった」

 リリューが補足する。

「なるほど。言葉や知恵を与えなければ、人は動物と同じですからね。飼っておくことは可能でしょう」

 ホックスが──ひどい結論を出した。

 動物と、同じ。

 飼う。

 桃は、泣きそうになっていた。

 何てひどいことを、と。

 これほどの白い髪で、これほどの歌う力があって。

 だからこそ、月側の人間は彼女を捕まえておきたかったのだ。

 だが、そのやり方は、人間に対するものではなかった。

「で、でも…この子は逃げたんですよね…どうしてでしょう?」

 逃がさないために知恵を与えなかったというのならば、何故彼女は逃げたのか。

「家畜も、飼い主がひどいと…逃げるものだよ」

 冷静に答えたのは──ホックス。

 ああ。

 もう、我慢できなかった。

 桃は、ぼろぼろと落ちる涙を、止められなくなったのだ。

 本能のままの彼女が、逃げたいと思うほど、ひどいところで暮らしていたのか。

 この素晴らしい歌声を持つ少女を。

 必ず。

 私が必ず。

 この子を、トーのところまで連れて行く!

 それは──桃の決心となった。
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