アリスズc

「いいわ…触らせてあげる」

 桃は、驚きながらその光景を見ていた。

 まさか、あのイデアメリトスの女性が、許可を下すなんて考えてもいなかったからだ。

 オリフレアは、フードの男にどくように言う。

「………」

 男は、無言ですっと下がった。

 彼女が両手を開くと、コーの目は輝いた。

 そして、飛び付いたのだ。

 ま、まあ、許可が出たなら、いっか。

 冷や汗をかきながら、桃はコーが彼女の形を確かめるのを見ていた。

 この癖も、我慢できるようにしなきゃ。

 町に入って、誰にも彼にもこんなことをしでかしては、目立ってしょうがない。

 トーの元に連れて行く前に、簡単に月の一族に見つかってしまう。

「ふふふ…くすぐったいわね」

 容赦ないコーの攻撃に、オリフレアは楽しそうに笑った。

 あ。

 桃は、胸にすっと冷たい感じが走ったことに気づいた。

 何だろう。

 すごく、嫌な予感がしたのだ。

「ねぇ…ハレイルーシュリクス」

 オリフレアは、コーに絡み付かれたまま、彼の名を呼ぶ。

「この子、気に入ったわ…私にちょうだい」

 ああああああああ。

 桃は、いきなり当たった自分の予感の上で、悲鳴をあげてしまった。

「この子でしょ、あなたの旅を遅くしているのは…私が引き取ってあげるって言ってるのよ」

 オリフレアの目は、うっとりとコーに向けられている。

 愛玩動物を、見るかのような目で。

 ハレは、ふぅとため息をついた。

 その音に、はっと桃が彼の方を振り返ると。

「オリフレアレックシズ…人間は、あげたりもらったり出来ないよ」

 おいで、コー。

 ハレが手を伸ばすと──コーは、ぱっとオリフレアから離れて駆け戻ってきたのだった。
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