アリスズc

「おのれ、半分め! 半分め! 泥棒女の息子め!」

 激痛にのたうちながら、女はわめき散らした。

 炎を、方向も定めず放ちまくる。

 エンチェルクは木陰へ退避していたし、すでにヤイクも林の中へと身を隠していた。

 その手の赤が消える瞬間を、エンチェルクは見逃さなかった。

 痛みで、自分が炎を放てなくなっていることさえ、すぐには気付けなかった女に、迂回した側面から襲いかかったのだ。

 落ちたのは。

 腕。

 片方の、腕。

「───!」

 もはや、女の絶叫は声にならなかった。

 もう片方の手で、己の髪を引きちぎるや、緑に燃え上がらせたかと思うと──宙空に舞い上がる。

 逃げる気だ。

 テルは、右手に巻いた髪に使う魔法を考えた。

 だが、確実に仕留められるものを、思いつくことは出来ない。

 使える魔法は。

 たった一度だけなのだ。

 深手は負わせたが、生き延びる可能性はあった。

 諦めかけた。

 その時。

 ヒュンッ!!!

 空を、一つの筋が切り裂いた。

 空を飛んで逃げる女の身に、その筋は突き立つのだ。

 一瞬。

 空で、それは動きを止め。

 そして林の奥深くへ──落ちた。

 あの筋がなんだったのか。

 テルが、はっと視線を地面に落とすと。

 まだ。

 まだ、その身も起こせない状態だというのに。

 朦朧としたままの。

 ビッテが。

 弓を構えていた。
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