短編集
「先生」
 授業を終え、パソコンをシャットダウンしようとしていた先生に急いで声をかける。
「すみません、もう一度見たい写真があるんです。見せていただけませんか」
 先生はマウスを操作して、この講義用のフォルダを開き、今日の日付の入ったファイルを選択した。次々と現れる画像を斜めに見て、目的のものを探す。
「あったかな」
「あ、これです」
 数人の学生が写っている。壁や手前の机には、ずらりと実験器具が並べられている。フラスコ、試験管、ビーカー。私に名前が分かるのはその程度で、名前を知る由もない液体がそれらの中に入っている。学生らはそれを見つめたり、カメラに目線を送ったりしている。
「写っている人は」
「ちょっと待って。ああ、」
 先生は別のファイルを開いて、写真の情報を探す。
「そこまではメモしていなかったなあ」
「調べればわかるんですか」
「僕が参考にした本にね。写っている人の名前、撮った場所、日付は書いてあったよ。図書館に行けば見られる」
 先生が口にした本の名前は、既に何度か挙げられた参考図書である。ものすごく分厚い、学校の五十年史、および百年史。私は手帳にそれを書き留めると、一礼してその場を去った。廊下を走り、階段を駆け降りる。目的地は図書館だ。無論、図書館にもNISHI2-407の基地はあるのだが、入り口で学生証による認証を受けなければならないため、移動することはできない。以前、NISHI2-407を使い、入館手続きをせずに中に入り、そのまま本を借りようとしたら借りられず、職員の方に説明するのに大変困ってしまった。そのため、図書館に入るときはNISHI2-407を使わない。
 学生証を提示して図書館に入り、検索コンピュータで本を探し、カウンターで請求する。書庫に入っているその本を持って来てもらい、その厚く重い本を抱えて自習室へ行く。鞄を机の上に投げ出し、本を開いて例の写真を探す。目を皿のように開き、文字と写真を追っていく。途中、次の授業の開始を知らせるチャイムが鳴ったが、構わなかった。この疑念を解消する方が先だ。
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