短編集


 あなたの荷物がすっかりなくなったこの部屋で、わたしの心の半分が、あなたからの良い連絡を待っている。わたしの心のもう半分は、悪い連絡を待っていた。
 壊れた時計を直しても、壊れた時は戻らない。新しい時計が刻むのは、壊れた時を埋めるものではない。壊れた時は壊れたまま。時は決して戻らない。

  なあに、時計なんぞは所詮
  時計という道具に過ぎぬ

 目に見えない、もっと確かなものを信じるのだ。
 もうその言葉が皮肉にしか思えなかった。あなたが見せた笑い顔、その横顔の像を消したくて首を振る。古びた詩集が熱い水滴を吸った。




< 11 / 115 >

この作品をシェア

pagetop