短編集
 おしてもひいても、彼は答えてくれた。
 かけひきも、楽しかった。
 
 ときどき彼の表情が読み取れないことがあった。どこで間違ってしまうのか、彼の求めるところと違うことを答えてしまうことがあった。でも、一つ一つほどいていくように歩みより、彼を理解することが出来た。彼も、わたしを受け入れてくれた。

「伝えたいことは何」
 わたしは、そのとき、それまでとは違う彼の魅力を見た。
 いつもは無口な彼が、雄弁になった。
 伝えるんだよ。言いたいことを、言葉にして。
 どんな言葉で、どういう順で、何を言えば良いのか。

 わたしは彼に導かれて、言葉を繋げた。
 全て言い切ったときのあの気持ちは何と表現したらいいんだろう。
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