短編集

 わたしは、わたしの道を行く。彼がいなくても進める道を。


「伝えたいことは何」
 あのときの彼の言葉は、その後もわたしの胸の中にずっとあった。
 伝えたいことを、伝えきる。そのために、言葉を選び、順序立てて、言う。それは彼が教えてくれた。
 ――思えばそれは、思いを言葉にしていくことは、彼の得意とするところではないのだけれど、それは彼のあまりにきっぱりとした性格ゆえ。だから、ときどき、むしろ彼が世界の言葉のような存在であったら、人々は思いをまっすぐに、違うことなく伝えうるだろうと想像してしまう。

 彼は、今、世界をつなぐ仕事をしている。
 わたしは、彼が示してくれた、言葉を使うことに楽しさを見出し、歩み続けている。


おわり
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