短編集
 叶わぬ思いだと、叶えてはならぬ思いだということはいつも頭の片隅で思っていました。この戦乱の世でこの地の平穏を揺るぎないものとするために、隣国と盟を結び、わたくしが嫁いで確固とする。わたくしが父上と母上の間に女として生まれた時からの役目です。わたくしの務めなのです。

 わかっていたのです。わたくしと千吉が結ばれることはないことなど。千吉も同じでしょう。それでも千吉は、わたくしに夢を見せてくれました。
 自惚れているのは承知の上です。わたくしは確かに千吉に愛しいと思われていました。千吉もわたくしと共に夢を見ていたのでしょう。

 コウ、千吉がコウと契ったとき、千吉はどんな顔をしていましたか。千吉のことですから、コウをただの下心から求めたとは思えません。どうにもならない思いや運命を嘆き、どうにか収めようとしてコウとの繋がりを求めたのではありませんか。千吉はコウにすべてを話し、その上でコウは千吉を受け入れたのではありませんか。
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