短編集

 それから、その黄色いヒヨコみたいな呼び方をやめてくれと言おうとしたが、はいはいと受け流されてしまうことはわかっているので口をつぐむ。

「あ、これお土産」
 と、差し出された紙袋の中を覗く。開いている一升瓶だ。
「越乃寒梅」
 ずいぶん高級な日本酒を持って帰って来た。

「どうしたんですか」
「あそこの店長、私のことお気に入りだからさあ」
 にっこりと笑う。こんな笑顔、普段の璋子さんは見せない。相当、酔っている。

「居酒屋なのに、お茶飲みが二人もいてごめんなさいって」
 謝ったらくれたのよ。
 良く解らない理屈だ。

「ショーコちゃんは可愛いから許すよ、ついでにこれ、持って行きな」
 璋子さんの下手な物まね。ああ、あの店長か。
 思い当たるその店は、璋子さんに連れられて僕も何度か行ったことがある。それと、璋子さんの意図も思い当たった。

「璋子さん、僕に妬いて欲しいんでしょう」
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