短編集
 断る理由など、僕は持たない。口から出るに任せる言い訳は、所詮照れ隠しに過ぎず、場所や時間はどうであれ、璋子さんと過ごすことをどうして僕は拒めよう。

「決まりね」
 僕の表情を見て、璋子さんが笑顔で言う。

 黒髪の美しい僕の恋人は、普段はとても冷静で、頭が良く、それ故にどこかそっけない雰囲気を纏っている。が、時折見せる茶目っ気、断りようのない我が侭、周りを溶かすような笑顔。僕を捕えて放さない魅力に溢れている。

「さ、行こう。まずはきー君の部屋」
 着替えて準備しないとね。そう言う璋子さんが着替えたのは、シンプルだけどとても品のあるワンピースだった。

「どうしたんですか、そんな気合い入れた服」
「似合わない?」
 いえいえ、僕は首を横に振る。
< 49 / 115 >

この作品をシェア

pagetop