短編集
「傷心を慰めようと思って来たのに」
 貴ちゃんは、口元だけで笑った。目元は悲しげに下がっている。
「私は、そんなに傷ついてないよ」
 と強がってみる。

「そんなにってどのくらいだよ。少なくとも俺の知っている紗和は、昼間っから泣きべそかいて道を歩けるほど、体裁を気にしない奴じゃない」
 ひまわりの丘の上にある斎場から帰る途中、私はうつ向いていた筈なのに、車ですれ違った貴ちゃんにはそれが私だということも、私が泣いていたこともバレていた。自分の顔が赤くなるのが解る。

「お前だって、心を傷めてるんだよ。だいぶ、な」
 そう言って貴ちゃんは、幼い子を慰めるように私の頭を撫でた。

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