短編集
 貴ちゃんからの返事を待った。が、貴ちゃんは答えてくれない。
「た……」
 言いかけて感じたのは、貴ちゃんの体の重み。自分の体が後ろに倒れていく、この感覚を私は知っている。

「イヤ!」
 私はようやく貴ちゃんの腕を払った。心地よい温かさが消えてしまった。
 貴ちゃんから逃げるように、ベッドを離れ、まだそこに座っている幼なじみを見下ろした。私の瞳には何が映っていたのだろう。呆れ? 軽蔑、それとも侮辱? もっと別のもの? 確かに言えるのは、彼の目には悲しみしか映っていなかった、ということ。

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